EPISODE 03 in 2005年8月

『日本丸』が運んできたのは、
4世代をつなぐ、再会の物語。

丸三の歴史の中に、現実とは思えない、まるで小説のような物語の当事者となった出来事があります。
その歯車は、閉店間際に来店されたお客さまのひと言から、ある日突然回りだしました。

「亡くなった両親の家財道具の処分と、家の売却をお願いしたい」

当時、家財の整理から売却までを請け負える不動産会社は稀でした。
詳しく話を聞く中で分かったのは、その方も地元である三ツ境で、長くお仕事をされているということ。
そして仕事柄、同じ三ツ境で長年、不動産の売買を手掛けている丸三のことを知っていたこと。
だからこそ、「丸三なら」という思いで売却の依頼をしたこと。

「わかりました。では一度、処分する家財の下見にお伺いします」

下見の当日、お客様とともに現場に入ると、見たこともない大きさの船の模型が目に止まります。
船首に描かれている船名は『日本丸』。
日本でも有数の“美しい船”として名高く、みなとみらいに展示されていることでも知られています。

「こちらは持って帰られますよね?」

あまりに立派な一隻の船の模型を目の前に、当然のように出た言葉。
しかし、想像とは違った答えが返ってきたのです。

「船乗りだった父の趣味は、船の模型をつくることでした。特にその船は、何年もかけてつくっていたので、とても思い出深いものなんです。ただ、私の自宅はマンション。とても持ち帰ることはできません……」

ケースを含めると、全長は1mを超え、高さも80cmほどにもなる模型。
お客さまのご自宅やご兄弟の家にも、保管できるスペースはなく、「処分するしかない」とのことでした。

「もしよろしければ、弊社の応接室に飾らせてください。ちょうど、窓辺にスペースがあるんです」

大切な品を快く引き継がせてくれただけでなく、売却のお取引を終えた後も、丸三に訪れて、嬉しそうに船を見つめるお客さまがいました。

「父の大切な形見を飾ってくださり、ありがとうございます」

それから10年ほどの年月が経った、2016年3月。
ひとりの女性が、駐車場を探しに来店します。しかし、その日は通常の窓口は満席。
駐車場の契約などではほとんど使われることのない、応接室で打ち合わせを進めることになりました。

席につくと女性は、熱心に船の模型を眺めています。

「船がお好きなんですか?」

「これは、私の祖父がつくったものだと思います。模型が飾られていた祖父母の家は、地元の不動産屋さんに依頼して売却したと聞いていました。それ以来、小さい頃から見てきたこの船が、どこにいったのかを知ることもなかったのです。まさかここで、また会えるなんて……」

この船の模型や祖父との思い出を懐かしそうに話す女性は、帰りがけにひと言。

「明日、私の子どもを連れてきてもいいでしょうか?」

翌日、船の模型の前で一緒に記念撮影をする親子の姿がありました。

船の模型をつくることが趣味だった船乗りの曽祖父。
丸三に依頼し、模型を譲り受けるきっかけをくれた祖父。
展示されていることを知らずに、偶然来店した母。
そして、はじめて曽祖父の残した日本丸を目にした子。

いくつもの小さな奇跡がつないだ、一隻の船の模型と家族4世代に渡る再会の物語。
もしかしたらこれからも、この船がまた新しいご縁を運んできてくれるのかもしれません。